USGS Mineral Commodity Summaries 2026 をもとに作成(米国内限定の記述は除外)。
| 国 | 生産量(2025) | 埋蔵量 |
|---|---|---|
| 中国 | 380 | 3,200 |
| ロシア | 310 | 12,000 |
| オーストラリア | 280 | 13,000 |
| カナダ | 200 | 3,200 |
| 米国 | 160 | 3,000 |
| ガーナ | 150 | 1,000 |
| メキシコ | 140 | 1,400 |
| カザフスタン | 130 | 2,300 |
| ウズベキスタン | 130 | 2,200 |
| ペルー | 110 | 2,200 |
| インドネシア | 90 | 3,600 |
| 南アフリカ | 90 | 5,000 |
単位: トン
単位: t / 正の値は供給超過、負の値は供給不足を示します。

金(Au)は、面心立方格子(FCC)構造を持つ遷移金属であり、全ての金属の中で最も優れた展延性を有する [1]。結晶構造は、単位格子あたり14個の原子(角に8個、面心に6個)が配置され、原子密度は75%に達する [1]。わずか1グラムの純金を1平方メートルの半透明な箔にまで薄く伸ばすことや、極めて細いワイヤーへの引き抜き加工が容易である [1]。融点は1,064℃、沸点は2,970℃であり、密度は19.30 g/cm³と非常に高く、この高密度はタングステン(19.25 g/cm³)と極めて近いことから、歴史的に真贋判定や偽造の指標とされてきた [1]。
化学的特性として最も特筆すべきは、その卓越した耐食性と耐酸化性である。金は最も反応性の低い貴金属であり、ほとんどの腐食性化学物質に対して不活性を保つ。単一の酸(硝酸や塩酸など)には溶解せず、硝酸と塩酸を1対3の体積比で混合した「王水」、あるいはシアン化ナトリウムのアルカリ溶液、および水銀(アマルガムを形成)にのみ溶解する [1]。この特定の酸にのみ溶ける性質は、古くから金の純度を確かめる「酸のテスト(acid test)」として利用されてきた [1]。
これらの金属学的特性により、金は装飾品のみならず、高度な信頼性が要求される工業・電子産業において不可欠な素材となっている。優れた電気伝導性と熱伝導性を持ち、かつ表面に酸化被膜を形成しないため、長期間にわたって接触抵抗が極めて低く保たれる。このため、携帯電話、コンピュータ、GPS装置、人工衛星などのプリント基板における微細なスイッチ接点、コネクタ、リレーのメッキ材として広く利用されている [1]。年間約200トンの金が電子機器向けに消費されている [1]。
さらに航空宇宙産業においては、極端な温度変化や宇宙空間の放射線下において揮発してしまう有機潤滑剤の代替として、可動部の固体潤滑剤として金が使用される [1]。また、赤外線を強力に反射する光学的特性を活かし、宇宙船の温度を安定させるためのポリエステル箔のコーティング材としても採用されている [1]。医療分野では、その高い生体適合性を利用した歯科用合金(ISO 22674:2016規格に基づく)や、関節リウマチの治療(金チオリンゴ酸ナトリウムの注射)、さらには特定のがん治療のための放射性同位体として活用されている [1]。
純金(24K)はそのままでは柔らかすぎるため、用途に応じて他の金属と合金化される。ジュエリー用合金(18K、金含有量75%)としては、銀と銅を等量(12.5%ずつ)加えたイエローゴールド、銅を20%加えて赤みを強めたローズゴールド、銀18.5%・亜鉛5.5%・銅1%を加えてロジウムメッキを施すホワイトゴールドなどがあり、添加元素によって機械的強度と色彩を制御する金属学的アプローチが採られている [1]。

金の需給ダイナミクスは、他の工業用金属とは根底から異なる特殊な力学で動いている。最大の特殊事情は、金が単なる「工業用コモディティ」ではなく、不換紙幣の信用リスクに対するヘッジ手段(安全資産)としての強固な金融的価値を内包している点である [1]。金の需要は工業消費や宝飾品製造の動向だけでなく、インフレ懸念、政治的リスク、経済的不確実性に対する投資家のセンチメントによって大きく左右される [2]。不況期や地政学的危機の際には、工業需要が減退する一方で、富の保存手段としての投資需要が急増するため、一般的なコモディティに見られる「需要減=価格下落」という法則が適用されない「購買の異常性」を示す [1]。
供給サイドにおける最大の構造的課題は、鉱山採掘における「品位の低下(Declining ore grade)」と、それに伴う極めて高い環境負荷である [4]。世界の一次金鉱床は熱水鉱床が主体であるが、長年の採掘により高品位な有望鉱脈は減少し、現在ではより大規模で低品位な露天掘り鉱山からの採掘が主流となっている [1]。この結果、1オンスの金を抽出するために採掘・破砕しなければならない岩石の量が幾何級数的に増加しており、採掘と選鉱プロセスにおけるエネルギー消費量(Scope 1およびScope 2エミッション)が膨張している [4]。金鉱山は、抽出された鉱石の99%以上を廃石(テーリング)として環境に排出する極めて資源効率の低い産業である [7]。
特に、コロンビアなどに代表される小規模零細採掘(ASM)においては、環境被害がより深刻である。アマルガム法(水銀)やシアン化法を用いた抽出プロセスは、土壌や水系への有害物質の流出を引き起こしている。あるライフサイクルアセスメント(LCA)の研究によれば、小規模鉱山の環境被害総スコアのうち、55.2%がシアン化プロセスに、34.4%がアマルガム化フェーズに起因しており、地域生態系に多大な負荷をかけていることが定量化されている [8]。さらに、南アフリカのウィットウォーターズランド盆地などでは、廃石から滲出する酸性鉱山廃水(AMD)が長期的な水質汚染の源となっている [7]。
二次供給(リサイクル)に関しても特有の制約がある。世界の金需要の約半分を占める宝飾品分野ではリサイクルが定着しているものの、電子機器(都市鉱山)からの回収は経済的合理性の壁に直面している [1]。年間約10億台生産され、平均寿命が2年とされる携帯電話の基板には金が含まれているが、1台あたりの含有金は金額換算でわずか50セント程度に過ぎない [1]。回収プロセスの複雑さとコストがこの含有価値を上回るため、莫大な量の金が使用済み電子機器の中に埋蔵されたまま散逸しており、リサイクル率の向上が業界のボトルネックとなっている [1]。