USGS Mineral Commodity Summaries 2026 をもとに作成(米国内限定の記述は除外)。
用途別比率(世界ベース)の定量記載はこの年の本文では確認できませんでした。
| 国 | 生産量(2025) | 埋蔵量 |
|---|---|---|
| ロシア | 16 | 750 |
| コンゴ民主共和国 | 7 | 150 |
| ボツワナ | 5 | 250 |
| ジンバブエ | 5 | 56 |
| 南アフリカ | 3 | 87 |
| アンゴラ | 1 | 150 |
単位: 百万カラット
この鉱物の公開データでは、時系列の需給バランス表が確認できませんでした。

ダイヤモンド(C)は、炭素原子が共有結合によって強固な四面体構造(ダイヤモンド構造)を形成した同素体である。宝石としての輝きが最もよく知られているが、科学的・工業的に見れば、ダイヤモンドは極限の物理特性を併せ持つ「究極のエンジニアリング材料」である [59]。
最大の物理的特性は、地球上の天然物質の中で最高の硬度(モース硬度10)を持つことである。これに加えて、金属やセラミックスを凌駕する「室温における世界最高の熱伝導率」を有する [59]。さらに、電子素材としてのダイヤモンドは、5.5 eVという非常に広いバンドギャップを持つワイドバンドギャップ半導体であり、高い絶縁破壊電界、極めて高い電子・正孔移動度を示す [60]。光学的特性においても、深紫外(DUV)から可視光、赤外線に至るまで極めて幅広い波長帯域で高い透過率を持ち、化学的・生化学的にもほぼ完全に不活性(耐薬品性に優れる)である [59]。また、特定の格子欠陥を人工的に制御することで、X線を反射・集束させる特異なレンズ特性も発揮する [3]。
従来の工業用途は、主に天然鉱山から産出される宝飾品に向かない低品質な石(ボーラス)や、爆射・キャビテーション法などで合成された粉末を用いた研磨材、切削工具、ドリルビットなどに限られていた [3]。
しかし、後述する気相合成技術の進化により、高純度で大面積な単結晶・多結晶ダイヤモンドの製造が可能となったことで、次世代のハイテク産業の基幹材料として爆発的な応用展開が進んでいる [59]。具体的には、5G通信基地局や高出力レーザー、航空宇宙レーダー用RFデバイスにおける極端な発熱を処理するための「究極の放熱基板(ヒートシンク)」としての活用である [60]。シリコン(Si)や窒化ガリウム(GaN)などの従来半導体の熱的限界を打破するデバイス材料として期待されている [60]。また、深紫外(DUV)LEDや高出力光検出器、粒子線・放射線検出器、人工衛星の光学ウィンドウ、過酷な環境下で動作するMEMSセンサーにも応用されている [59]。
近年最も革新的な用途は「量子技術」分野である。ダイヤモンド結晶内の炭素原子を窒素で置換し、隣接する空孔とペアにした「NVセンター(窒素-空孔中心)」という格子欠陥は、室温で単一の電子スピンを光学的・磁気的に制御できるという驚異的な特性を持つ [62]。これを利用して、脳磁界や微小な磁場変動を室温で検出できる超高感度な量子センサーや、量子コンピューターの基盤ハードウェア材料としての研究開発が世界中で進められている [59]。さらに医療分野でも、X線光学レンズとして利用することで、患者の放射線被曝量を大幅に低減する画期的な技術として実用化が進んでいる [3]。

ダイヤモンド市場は現在、数百年にわたる産業の歴史を根本から覆す巨大なパラダイムシフト、すなわち「ラボグロウン(合成)ダイヤモンド(LGD)」の台頭による伝統的市場構造の破壊という、極めてドラマチックな特殊事情の渦中にある。
歴史的に、天然ダイヤモンド市場は、デビアス社に代表される少数の巨大な採掘企業による強固な寡占・カルテル体制によって、長らく供給量と価格が厳密にコントロールされてきた [63]。天然ダイヤモンドの価格は、金属のような物理的有用性ではなく、「希少性」や「愛の証(婚約指輪)」といったマーケティングによって人為的に創出された無形の価値(ベブレン効果)によって支えられている側面が強い [3]。行動経済学的に見れば、より安価で優れた代替品が存在しても、消費者が高価な「天然由来」の石に高い対価を払うという「購買の異常性」を示す特殊な市場であった [3]。論文では、これをカジミール・マレーヴィチの絵画「黒の正方形」(誰でも描けるがオリジナルにのみ天文学的価値がつく)になぞらえている [3]。
しかし、テクノロジーの進化がこの強固な独占のダムを崩壊させた。化学気相成長法(CVD)や高温高圧法(HPHT)によるラボグロウン・ダイヤモンド(LGD)は、物理的、光学的、化学的に天然ダイヤモンドと「完全に同一」の構造を持つ [64]。それどころか、天然石が地球の地殻変動による偶然の産物であるため不純物がランダムに混入するのに対し、LGDはクリーンルームの真空チャンバー内で厳密な技術的管理のもとで成長させるため、不純物(窒素やホウ素)のドーピングを原子レベルで制御でき、天然石を凌駕するサイズや高い純度(タイプIIaなど)を安定的かつ安価に製造できる [3]。
この生産コストの低さは破壊的である。鉱山開発(例えばGahcho Kué鉱山)では年産1カラットあたり217米ドルの巨額の設備投資(CapEx)が必要であり、地下深くからの採掘コストは年々上昇している [3]。対照的に、LGDは初期投資こそHPHTで500〜833米ドル、CVDで549〜1648米ドルと高いものの、一度設備を導入すれば限界費用は低く、物理学の進歩(マイクロ波出力やガス比率の最適化)によってさらに生産性を飛躍的に高めるポテンシャルを持っている [3]。結果として、LGDは天然石よりも20〜30%安価な価格で宝飾市場に供給され、特に価格に敏感な中間層やミレニアル世代のシェアを急速に奪い、天然ダイヤの価格を数年来の安値へと暴落させている [3]。
さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点も市場を二分する決定的な要因となっている [64]。天然ダイヤモンドの採掘は、露天掘りによる広大な生態系の破壊、莫大な土砂の掘削を伴い、合成ダイヤの5〜6倍にも及ぶ大量の水を消費する [3]。また、過去には紛争の資金源(ブラッド・ダイヤモンド)となった暗い歴史や、労働環境の問題など倫理的(エシカル)な負の側面を抱えている [3]。対照的に、LGDは「紛争フリー」「エシカル」を標榜し、環境意識の高い消費者(エコ・コンシャス)に強くアピールしている [65]。
ただし、LGDにもアキレス腱が存在する。高温プラズマ状態や超高圧を長期間維持してダイヤを成長させるため、莫大な電力エネルギーを消費する点である。この電力が再生可能エネルギー由来でなければ、大量の温室効果ガス(CO2)を排出することになり、真の意味で「サステナブル」とは言えないという指摘がある [3]。今後は、サプライチェーン全体のカーボンフットプリントと透明性の確保が、ラボグロウン企業の淘汰を分ける鍵となる。また、ロシアに対する西側諸国の経済制裁により、世界の主要な天然ダイヤ生産国であるロシア産の原石流通が制限されていることも、サプライチェーンの再編と価格変動に拍車をかけている [64]。
天然ダイヤの採掘量は2005年の約1億7700万カラットをピークに減少傾向(2021年は1億1600万カラット)にある一方、LGDの生産量は年率7%以上の驚異的なスピードで急成長を続けている [3]。ダイヤモンド市場は今、希少性という神話の崩壊と、究極の半導体材料という新たなテクノロジー産業の幕開けという、2つの歴史的転換点の只中にある。